はじめに:仏教の「宗派」、どれが正解というわけではありません
お寺やお葬式の場面で「うちは浄土真宗で……」「菩提寺は真言宗です」などと聞くことがありますが、いざ詳しく聞かれるとよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
日本には複数の仏教宗派があり、それぞれ歴史や考え方、儀式のスタイルが異なります。本記事では、特に広く知られる7つの宗派(天台宗・真言宗・浄土宗・浄土真宗・曹洞宗・臨済宗・日蓮宗)を中心に、違いや共通点をわかりやすく紹介します。
なぜ宗派が分かれているのか?
仏教は紀元前5世紀頃にインドでお釈迦さま(ブッダ)によって説かれ、中国、朝鮮半島を経て日本へと伝来しました。
時代や社会の変化に伴い、同じ仏教でも人々の理解の仕方や修行方法が異なっていきます。その結果、さまざまな宗派が生まれました。日本では主に「大乗仏教」の流れをくむ宗派が多く、どれも「人々の救い」を目指している点では共通しています。
主要な7宗派とその特徴
【1】天台宗(てんだいしゅう)
- 開祖:最澄(さいちょう)
- 本尊:阿弥陀如来、薬師如来、釈迦如来など
- 特徴:あらゆる人が仏になれる「一乗思想(いちじょうしそう)」
- 教えの中心:法華経を重視しつつ、禅や念仏、密教などを幅広く取り入れる
最澄が中国から伝えた教えで、日本仏教の“元祖”的存在です。特徴は包括的で柔軟な姿勢で、他宗派にも影響を与えました。比叡山延暦寺が総本山です。
【2】真言宗(しんごんしゅう)
- 開祖:空海(弘法大師)
- 本尊:大日如来(だいにちにょらい)
- 特徴:密教(みっきょう)と呼ばれる神秘的な修法・儀式が中心
- 教えの中心:「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」=この身のままで仏になれる
真言宗は密教の代表的な宗派で、真言(マントラ)や印、護摩などを用いて神秘的な修行を行います。高野山金剛峯寺を拠点とし、厳かな法要が特徴です。
【3】浄土宗(じょうどしゅう)
- 開祖:法然
- 本尊:阿弥陀如来
- 特徴:「南無阿弥陀仏」を唱えれば誰でも極楽に往生できる
- 教えの中心:「専修念仏」=ただ念仏をとなえるだけで救われる
苦しむ庶民にも開かれた宗派として人気を集めたのが浄土宗。修行をせずとも念仏だけで救われるという考えは、多くの人々の心をとらえました。
【4】浄土真宗(じょうどしんしゅう)
- 開祖:親鸞
- 本尊:阿弥陀如来
- 特徴:人は自力でなく、阿弥陀の力(他力)によって救われる
- 教えの中心:「他力本願」=自分で頑張るのではなく、阿弥陀仏を信じる心こそが大事
浄土宗からさらに発展し、「信じるだけでよい」という点を強調したのが浄土真宗です。法要では念仏ではなく「正信偈」などを唱えるのが一般的です。
【5】曹洞宗(そうとうしゅう)
- 開祖:道元
- 本尊:釈迦牟尼仏
- 特徴:「只管打坐(しかんたざ)」=ただひたすらに坐る坐禅
- 教えの中心:日常の行いの中にこそ仏道があるという考え方
道元の思想は「今ここ」に集中する生き方を説いており、現代のマインドフルネスとも親和性があります。日々の掃除や食事も修行と考えます。
【6】臨済宗(りんざいしゅう)
- 開祖:栄西
- 本尊:釈迦牟尼仏
- 特徴:坐禅と「公案(こうあん)」という禅問答によって悟りを得る
- 教えの中心:精神力と直感によって自己を見つめる修行
禅宗の一派で、精神修養として武士階級にも広まりました。京都・妙心寺などが有名で、茶道や剣道などにも影響を与えています。
【7】日蓮宗(にちれんしゅう)
- 開祖:日蓮
- 本尊:久遠実成の釈迦如来
- 特徴:法華経こそ最高の教えとし、強い信仰心で現世の幸せを求める
- 教えの中心:「南無妙法蓮華経」を唱える「唱題(しょうだい)」
激動の時代に庶民を救おうと活動した日蓮は、非常に強い信念を持った僧侶でした。災いを祈りで退ける、現世利益(この世での幸福)を重視する傾向があります。
宗派別比較表(簡易まとめ)
宗派名 | 開祖 | 本尊 | 教えの中心 | 修行法 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
天台宗 | 最澄 | 多仏 | 法華経、一乗思想 | 禅・念仏等 | オールラウンドな教義 |
真言宗 | 空海 | 大日如来 | 密教・即身成仏 | 真言・護摩等 | 神秘的で荘厳な儀礼が特徴 |
浄土宗 | 法然 | 阿弥陀如来 | 念仏で極楽往生 | 念仏 | 庶民に開かれた信仰 |
浄土真宗 | 親鸞 | 阿弥陀如来 | 他力本願 | 信仰中心 | 正信偈、戒名なしも特徴 |
曹洞宗 | 道元 | 釈迦牟尼仏 | 只管打坐 | 坐禅 | 日常そのものが修行 |
臨済宗 | 栄西 | 釈迦牟尼仏 | 公案と坐禅 | 坐禅・問答 | 禅問答での悟り |
日蓮宗 | 日蓮 | 久遠釈迦如来 | 法華経・唱題 | 題目 | 現世利益・祈りの力を重視 |
まとめ:違いを知ることで、自分のルーツや思いに気づける
仏教の宗派にはそれぞれ異なる特色がありますが、根本にあるのは「人を救いたい」という願いです。宗派の違いに優劣はありません。
お葬式や法要をきっかけに、「うちは何宗だろう?」「なぜこのお経を読むのだろう?」と疑問を持ったら、ぜひお寺や葬儀社に聞いてみてください。
宗派の知識は、信仰というより“文化や教養”としての大切な一面もあります。
※諸説あるところもあります。
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